■一週間目

帝人君が、部屋から出てこなくなってしまった。もう今日で一週間になる。学校にも、買い物にも出ていない。文字通り一歩も外に出ていないようだ。彼のアパートの、玄関の錆びたドアノブは、鍵がかかったまま一度も回されていない。

現役男子高校生から、いわゆるひきこもりに転身した帝人君は、それでも外界とのコミュニケーションを止めたわけではない。毎晩チャットに顔を出すし、こちらからのメールにもマメに返信する。
しかし、アパートを訪ねると決してドアを開けて姿を見せたりせずに、扉の向こうから「そのうち出ます」と言うだけだ。

焦れた首なしの運び屋が、玄関のドアを蹴破ってしまおうかと考え始めると、扉を壊したら絶交すると釘を刺されたという。加えて、俺に対しても、ドアノブにも触らないよう厳重に言い含められる。ドアノブに電流でも流していそうなほどの警戒だった。
仕方ないので、今日もドア一枚を隔てて、俺は少年と相対する。

「みーかどくーん、あーそーぼー」

狭いアパートなので、玄関から部屋までに声が届く。耳をすますと、かすかにパソコンのキーボードを叩いている音が聞こえる。それが一度止み、離れたところから返事がした。

「また今度ー」

そのまましばらくすると、室内を歩く物音がする。それを待ち構えて、すぐ近くの人に問いかけるくらいの声量で話し始める。

「今日も学校休んだんだ?」
「ああ、はい」

帝人君の声が聞こえる。さっきより、声が近い。ドア一枚向こうに帝人君の気配を感じる。俺は覗き穴すらない、平板のドアに触れた。一センチにも満たない隔たりの先に、帝人君がいる。

「いい加減出てきたら?」
「そのうちに」
「そのうちにって、いつ?このまま冬眠でもするつもり?」
「あ、それちょっと良いかもしれませんね」

ドアの向こうで潜めた笑い声が聞こえた。彼は部屋から出ない理由を説明したがらない。何度聞いてもはぐらさかれたり「笑われるからそのうち話す」と言っては、都合が悪くなると奥に引っ込んでしまう。

彼が引きこもってからは、ドアをノックすることすらご法度になっているので、帝人君の勝手なタイミングでいつも会話を切り上げられる。そのため、彼の気分を損ねるような攻撃的な物言いは収め、なるべく気安い言葉を選んで話す。

俺は安っぽい玄関を、音を立てずに撫でた。この間まで、夜中だろうと早朝だろうと訪ねれば部屋に上げてくれていたのに、今はひたすら頑なに、帝人君は俺を拒否する。もちろん、俺だけを家に入れないわけじゃない。話を聞いた首なしの運び屋や、クラスメイトの少女やらも平等に、この玄関をくぐらせない。それはまるで、篭城だった。

だから、冬眠という言葉を笑う帝人君の言葉が、シャレにはならないと俺には思えた。秋を迎えて、池袋の気温は日に日に下がっていく。もし明日から彼がこの扉の向うで冬眠を開始して、春が来るまで返事の一つも返ってこないとか、と俺は幼稚な想像をめぐらす。

「帝人君、冬眠するの?」
「……えっと」
「君が冬眠するなら、俺もするから中に入れて」
「冬眠なんてしませんよ。僕たち人間じゃないですか」

ひきこもりの少年から、まっとうな返事が返ってくる。当然だが、彼は冬眠をするつもりはないようだ。それなら出てきなよ、と俺は言う。人間だと言うのなら、人間らしく人間社会で生きたらどう、と続けて言うと、再びドアの向うで潜めた笑い声が聞こえた。インターネットも、人間らしい人間社会じゃないですか、と帝人君が幼い声で言う。かわいくない反論だ。

学生らしく学校に行きなよと俺が言う前に、帝人君がドアのすぐ傍で、囁く。

「秋のうちには、出てきますよ、きっと」

秋って、結構幅があると思うんだけど。それに、きっとって何なの、何で他人事みたいな言い方なんだい、と俺が聞いても、もはや返事はなかった。ドアの向うから気配が失せる。帝人君が部屋の奥に行ってしまったようだ。携帯でチャットルームを確認すると、退席していた田中太郎のアイコンが、チョコボールとおもちゃのカンヅメの話題で盛り上がる話の輪にすんなりと入っていく。

帝人君のキーボードのタイプ音が、玄関越しにわずかに聞こえた。もはや相手にされないということがわかった俺は、玄関前からUターンする。その際、鼻先を掠めるように漂っていた蝶々を、手で追い払う。ひらひらと、蝶々は逃げていった。黄色い羽に、黒や青や赤の色が浮いている。アゲハ蝶だ。秋生まれだろうか。さなぎから孵ったばかりなのかもしれない。

秋の蝶々は、弱弱しい。


■一週間と一日目

帝人君が部屋から出てこなくなって、何が変わったかというと何も変わらない。男子高校生が一人ひきこもりになったからといって、テレビのニュースになるわけでもないし、誰かが死ぬわけでもない。彼の友人らや、担任教師は困惑しているかもしれないが、今時ひきこもりなんて珍しくもない。

帝人君のアパートに足しげく通う俺だって、別に帝人君が出てきても出てこなくても、かまわない。創始者がひきこもり始めたからといっても、ダラーズは今日もきちんと機能しているし、何の揉め事も起こっていない。実に平和だ。めでたいことだ。

「(あの子、何考えてるんだろう)」

俺はただ、そういう単純な疑問から、彼のアパートに足を向ける。俺の身辺調査では、帝人君が学校でいじめを受けたとか、好きな女子にフラれたとか、何かショックなことがあったとか、そういう情報は見当たらない。本当にいきなり、彼はあのドアに鍵をかけたのだ。

思春期の子供が衝動的に、周りの気を引きたくてそういう行動に出ることも、ままあるだろう。でも、それも彼に関して言えば不思議だ。あんなに非日常が好きで好きでたまらない彼が、非日常の権化である首なしをも拒否している。意固地に、部屋から出てこない。彼の好む非日常は、あの狭い四畳半には無いはずなのにだ。

夕方も迫る頃合に、俺は帝人君のアパートに到着した。アパートの周りの道路には、ちらほら彼と同い年くらいの学生や、定時帰宅のサラリーマンなどが歩いている。アパートの古びた階段に靴底を乱暴にぶつけ、わざと音を鳴らして上る。禁じられているノックの代わりだ。

「みーかーどくん」

なるべく警戒心を煽らないように、自分でも間抜けに思う声で少年の名前を呼んだ。しばらくして、ドアの向うから返事が聞こえる。

「臨也さん、よく毎日来ますね」
「うん、だって、俺は君が心配だからね」

俺は情報屋だ。けど、彼の身に何が起こったのか、まだわからないでいる。ひきこもる理由を知らない。現在はダラーズに影響が無いけど、この先彼を俺が仕掛ける戦争に投じさせようとしている俺にとっては、彼の精神状況を把握できないというのはいささかいただけないことだ。

そうは言っても、おそらくダラーズに問題が起きるなりすれば、否応なく出てくるとは思う。が、それでも駒である少年の変化に、アンテナを張っておくことも無駄ではないだろう。

「そういえばさ、こんなに学校休んで、成績とか出席日数は大丈夫なのかい?クラス委員もしているんだろう?」
「出席日数は問題ないはずですけど……。そうですね、園原さんには迷惑をかけてると思います……」

好きな女の子に迷惑をかけるという自覚があるなら、以前の彼であればひきこもることはなかっただろう。部屋から出ないことが、それほど重要なことなのかもしれない。学校にも行かないで、家にこもる。それを優先させなければいけない状況とは、何なのか。

「一日中、何してるの?退屈じゃない?」
「もちろん忙しくはないですけど……。時間があるので、ネットで作業とかしてます。こうやって臨也さんも来てくれますし、そこまで退屈ではないですよ」

彼は、自分の生活費をネットビジネスで賄っている。平凡そうな顔をして、その方面の手腕は高校生としては秀でている。時間が余っている今なら、普段より稼いでいるかもしれない。とりあえず金銭的な面でいえば、この篭城生活に問題はないようだ。

ただ、金があっても物資が足りない。ドアを開けないという都合上、彼は買い物に出ることもないし、ネットスーパーの宅配便すら受け取っていない。彼がひきこもる前後の情報を集めても、篭城のために食料を買い込んでいたとも思えない。

「帝人君、ちゃんと食べてるの?」
「あはは、臨也さん、お母さんみたいなこと言うんですね」

無邪気な声がした。表情は見えないが、その声に衰弱した様子はない。米と水さえあれば、案外人は一週間は生きていけるのかもしれない。あとは、缶詰とか。明らかに栄養が偏りそうだ。俺は我慢できない。

「……何か、差し入れもってこようか」
「そんな、悪いですよ。……それに、玄関を開けなきゃ、受け取れませんし…」
「そう」

お風呂はどうしてるの、と聞けば、お湯で体を拭いてるという。俺のマンションならジャグジーもついてるよ、とか、そういう釣り方は、効果が無い。ひきこもり生活のあれこれを聞くたび、俺はますます疑問を深める。どうしてそこまで不便な生活を送っているんだろう。言いたかないけど、不潔だし、不健康だ。

「何でそこまでして、閉じこもりたいんだい?」
「僕は閉じこもりたいんじゃなくて、閉じ込めたいんですよ」
「哲学的だね」
「そうですか?」

自分を閉じ込めて楽しいんだろうか。何だかマゾヒスティックなその行為は、非日常ごっこか何かなんだろうか。そう結論づけるにも、まだまだヒントが足りない。わからない。

「(この子、何考えてるんだろう)」

返事をしなくなった俺を帰ったとでも思ったのか、帝人君の気配が玄関のドアの向うから遠ざかる。俺がアパートの古びた階段に靴底を乱暴にぶつけ、わざと音を鳴らして下りた。地団駄の代わりだ。


■一週間と二日目

セットン【地味に買ってみてますよ、チョコボール】
田中太郎【あ、本当に狙うつもりなんですね、セットンさん】
セットン【ええ、何か相方がやる気になっちゃってて】
田中太郎【それじゃ、大人買いとかしたり?】

甘楽さんが入室しました。

セットン【いや、そんなに買っても消費できないので、一日一個にしてます】
甘楽【こんばんわー!人の不幸は蜜の味、他人の悲劇はローヤルゼリー!甘楽ちゃんでっす☆】
田中太郎【こんばんは、って高らかに言うことじゃないでしょう!】
セットン【ばんわー。テンション高いなぁ】
甘楽【あら、またチョコボールの話ですか!】
セットン【ええ、またチョコボールの話ですよー。甘楽さんもどうですか】
甘楽【私はダイエット中なのでー。それにしても、何でまたチョコボール?】
田中太郎【ああ、おもちゃのカンヅメが変わって、それが何か面白そうだからですよ】
甘楽【カンヅメって言うと……あの、エンゼル集めて応募する?】
セットン【そうです。今、「愛のカンヅメ」って奴なんですよ】
甘楽【へー!愛!それはそれは……乙女として、ちょっと興味でちゃいますねっ】
田中太郎【甘楽さんも、ダイエット返上で買ってみたらどうですか?】
甘楽【うう~ん悩みどころですねぇ。エンゼル当てるの、結構確立低いって聞きますし】
セットン【現在十敗中です】
田中太郎【あれって、金のエンゼルだと結構確立低いんですよね。二パーセントとか一パーセントとか…】
甘楽【金のエンゼル出すまでに、体型変わっちゃいますよう!】
セットン【そんなに!?……まぁ、自分は食べないので他人事ですが】
田中太郎【食べないんですか?チョコレート嫌いとか?】
セットン【そんなところです】
甘楽【というか!人に勧める太郎さんも、買ってみたらいかがですかー?】
田中太郎【いやあ、今はちょっと…あまり外に出歩かないというか外出しないというか】
セットン【あれ、そうなんですか。仕事とか?】
甘楽【もしかしてホテルに缶詰状態とか?!】
セットン【ああ……おもちゃのカンヅメとかけたわけですね】
田中太郎【突っ込みませんよ】
甘楽【酷い!】
セットン【しかしおもちゃのカンヅメって、私、他のバージョンも持ってないんですけど…何が入ってるんですかね】
甘楽【えっ、何が入ってるかわからないのに欲しいんですかー?】
セットン【相方は、愛のっていうところに注目してるんですが、私は単純に缶詰のケースが可愛いなと】
田中太郎【ハート型なんですよね】
甘楽【えー!可愛い!】
セットン【あんまり期待はしてないんですけどね】
甘楽【何だか、私も気になってきましたねぇ…。それに、太郎さんの缶詰の理由もー!】
セットン【ああ、そういえば何で外出されないんですか?病気とか?】
田中太郎【いやそんな、大した理由ではないですって】
甘楽【けどけど、「愛の」って銘打つカンヅメって、確かに何が入ってるか疑問ですよねぇ】
セットン【でしょう。愛のカンヅメ、と言われると、余計に中身が気になります】
田中太郎【それは……開けてからのお楽しみですね】
セットン【ですね、早くエンゼル当てて、開けたいなぁ】
甘楽【そうですねぇ、こじ開けたいですね☆】
田中太郎【それは何だか、意味違くないですか>甘楽さん】
セットン【いや、こじ開けたら、壊れるでしょう>甘楽さん】
甘楽【ああっ!集中砲火!】



■一週間と三日目

翌日は、コンビニでチョコボールを一箱買った。自分で開封することなく、帝人君のアパートへ向かう。昨日は所用でアパートまで訪ねることができなかったが、チャットで会話するかぎり特に変化は無いようだ。

今日で彼が家から出なくなって、十日目になる。それでも、目立った動きは無い。午前中に、来良学園の教師が一人、欠席を続けていることを見かねてやってきたようだ。しかし俺と同じようにドア越しの応対しかしてもらえず、追い返されていた。

「みかどくーん」
「はーい」

今日は、すぐに返事が返ってきた。しかしやはり、ドアを開けて俺を迎え入れる素振りはない。以前なら、諸手を挙げてという様子でないにしても、俺を無碍にするような態度はとらなかった。突然の来訪者に困ったふりをしながら、インスタントのお茶を出してくれるぐらいには歓迎してくれた。

「(だって帝人君、絶対俺のこと好きだし)」

これは間違いない。告白されたわけじゃないけど、わかる。断言できる。彼は俺に気がある。でなければ、あんな目で俺を見ない。部屋を訪ねて、俺がコートを脱いだ時の目も、俺が帰ろうとした際の「帰らないで」とでも言いたげな目は、演技しようと思ってできるものじゃない。

誰かに好かれるのは通算で四十人目くらいだけど、その四十人と全く同じ視線を、彼は俺に投げてくる。俺が気づかないはずがない。彼は俺のことが好きだ。俺のことが大好きなはずだ。

「ねぇ帝人君、デートしない?」
「は?」
「いや、だから。どこか遊びにいこうよ。二人っきりで」

俺からこんな言葉を引き出しても、それでもドアノブはぴくりも反応しない。そして、やけに弱弱しい声で返事をする。

「……申し訳ないんですけど……今は、まだ……」
「まだって、じゃあいつになったら出てくるの?」
「わかりません」

俺はドアノブを握った。ひんやりとした金属の感触が、手のひらに広がる。俺の行動が見えていないはずなのに、ドアの向うの帝人君の声が強張った。

「臨也さん、手を、離してください」
「………」
「……今日は、帰ってください」

警戒心を全面に出したような、帝人君の声が遠くなっていく。俺には、ドアの向うの帝人君の行動が見えていないが、何となく、じりじりと後ずさる帝人君の姿が想像できた。ホント、こんな薄っぺらい玄関、蹴破ってやっても良いんだ。けど、駒として彼を動かしたい俺にとっては、絶交は勘弁願いたい。

「わかったよ」

ゆっくりとドアノブから手を離す。帝人君から返事は無いが、安心するように息をついていることだろう。

何となく、このまま何もせずに帰るのも馬鹿らしくて、俺は玄関の扉についた郵便受けに、コンビニで買ったチョコボールの箱を投函する。この程度のサイズなら、郵便受けの金属の隙間に余裕で入る。
 チョコボールの小さなパッケージが、難攻不落のドアをたやすく潜り抜けて、向こう側へたどり着いた。


■一週間と四日目

帝人君は、ひきこもることで、俺の気を引こうとしてるんじゃないか。そう仮定した俺は、彼のアパートに向かうのをやめた。代わりにチャットに顔を出すと、田中太郎のアイコンがある。チャットの相手となることもできるが、俺はチャットルームのウィンドウを閉じた。

帝人君がかまってちゃん状態なら、しばらく放置してみよう。そう決めて、俺は机の上に置かれたチョコボールの箱を手に取る。開封はされているが、中身には一切手がつけられていない。そんな状態のチョコボールが、事務所に山のように築かれている。

「ちょっと波江、いい加減にしたら?」

仕事もそこそこに、買い込んだチョコボールを一つずつ開けて黄色いくちばし部分を確認している秘書に声をかける。高給取りの女は、「誠二のためよ」と言ったきりで、その作業をやめる素振りもみせない。

彼女の最愛の弟が、その恋人とともにチョコボールのエンゼル集めをしているらしい。波江は弟に付き合っているだけだが、彼らだけでなく、サイモンも集めているとかいう情報が入っている。池袋で局地的に流行っているらしい。あのシズちゃんも買っているとか。流行の発信源は聖辺ルリだとか、来良学園の生徒にもじわじわ広がってるだとか、色々聞く。

実際、局地的でしかないが、都市伝説の首なしライダーにまで波及しているのだから、結構驚きだ。新羅、間違いなく太るな。箱を振って、チョコボールを手のひらに転がす。黄色いくちばしに、天使は居ない。


■一週間と五日目

帝人君のところには、数日行かないでおくつもりでいる。この揺さ振りが効いて、ひきこもったら誰にも相手にされない、と反省して彼があのドアを開ければハッピーエンドだ。俺もこれ以上、面倒な思いをしないで済む。

これまで頻繁に彼のもとへ通っていた俺は、もしかしたらかまわれたがりの帝人君に、餌をあげていたのかもしれない。構われたがるということが悪いわけじゃない。人間なんだから、そういう周期もあるだろう。だが彼の場合、そのやり方が少し強情すぎた。心配して、出てきてよとせっつくこちら側を、玄関で追い返すなんて、以前の彼ならきっとしなかった。

前までは、客が来たら、とりあえず中に上げて、一枚しかない薄い座布団を譲って、色も味も薄いお茶を出すぐらいはしてくれていた。彼は嗜好はやや面白い人間だけど、その他は割りと常識的なところがある。

俺に対してもそうだ。普通、好きな人間が家に来たとしたら、エロいこととかドエロいこととかしたくなるもんじゃないかなと俺は思うんだけど、彼はそういう目で俺を見ることはしても、実際にこちらに手を伸ばしたりはしてこなかった。

「帰らないで」「もっと居て」と、雄弁に目や声色で語るくせに、彼は指先すら動かさない。引き止める言葉は一度だけ吐いたけど、それっきりだ。まぁその時は仕事があって、俺は結局帰ってしまったんだけど。

とにかく彼は、俺に対して、自分の気持ちを行動に結び付けない。物欲しそうな目をしたとしても、手を出さない。AVのパッケージを見るような、そんなエロい目で俺を見てくるくせに、俺に何かしようと迫ったりもしない。

それは、単純にチキンだからというよりも、望みが無いことを彼がよくよく理解しているからだ。人の気持ちには鈍いが、賢い子供だから、状況判断は早い。下手に手を伸ばして俺に拒否されてしまうことよりも、生ぬるいお茶を出して世間話をできる関係を維持したいんだろう。

そう、だから、彼がこうしてひきこもっていることが不思議で仕方ないんだ。好きな人間がわざわざ新宿から池袋まで訪ねてきてやっているというのに、顔すら見せない。

ひきこもることで俺の気を引こうとしている、という俺自身が立てた仮説も、実は疑わしい。非日常に自分から首を突っ込みたがるけど、こちらのリアクションを誘うような子ではない。それに、俺に呆れられるというリスクだってあるじゃないか。

「(あの子、何がしたいんだろう)」

いつの間にか帝人君のことばかり考えていた俺は、仕事の手が止まってしまっていた。頼れる秘書は仕事そっちのけで、チョコボールの開封作業に勤しんでいる。そのため、仕事の進行に少々ズレが生まれてきている。仕事相手でもない駒の少年に思いを馳せるよりも、目の前のくそったれな仕事に向かおうと、チョコボールの山を崩しながら、パソコンの電源を入れた。


■一週間と六日目

外出拒否とそれに伴う登校拒否を併発している帝人君は、やはり今日も玄関を開けることはなかった。見張りにつかせている人間からの報告メールの羅列を整理する。総括すると異常無しだが、一つ気になる記述があった。一日中、電気が点けっぱなしなのだという。

電灯を消し忘れるって、パソコン前で寝落ちでもしているのか、と思いチャットルームのログを確認する。しかし田中太郎は、深夜一時過ぎにきっちりと「おやすみなさい」と挨拶をしてから落ちていた。

それなら徹夜でもしてるのだろうか。学校を休んでいるんだから、そんな急ぎの宿題も何も無いだろうに。ネットビジネスを手がけているとしたって、未成年でできることは限られている。仕事が立て込んでいるというわけでもないだろう。

閉じられた玄関のドアの向うで、彼が寝ているのか、起きているのかもわからない。

「(……死んでたりして)」

ふとそう考え始めてしまう。孤独死、とかそういう言葉がちらつく。メールしようか、と考えかけた。しかしメールを送ってから返事が来るまでの時間を想像するだけで、俺はぞっとした。電話にしたって同じだ。

報告のメール欄を閉じて、俺は席を立つ。そうして未だにチョコボールの箱を開け続けている秘書の横を通り過ぎて、池袋へ足を運ぶ。 時刻はちょうど夕方に差しかかろうとしていた。秋の日は釣瓶落としだ。タクシーの窓から眺める空から、血のような夕日の赤みが、少しずつ抜け出していく。そうして赤を引いた空は、一度だけ青色に変わって、すぐに暗い色に呑まれた。

青アザが黒ずんでいくかのように、空がじわじわと内出血を起こしていっているようで、ひどく、不気味だった。

相変わらずボロいアパートの、鉄の階段を上る。足音は忍ばせた。なんとなく、しばらく来ないと決めた自分に対して後ろめたいからだ。階段の先の、薄い玄関のドアの前に立つ。押しても引いてもきっと簡単に開く、開かずの扉は、夜の暗さの中ではひときわ貧相だ。こんなのを開けるのに手こずるなんて笑ってしまう。

ドアノブに触れる。鍵がかかっていたって、ちょっとガチャガチャやって、浮かして押すようにすれば開けられそうな形をしている。開けてしまってやりたい。けど、と思いとどまる。ドアノブから手を離した。そして手を離すと、途端に開けたくなる。

足元を見ると、玄関のドアの底から、中の光がうっすら漏れていた。彼は居るはずだ。でも、物音が聞こえない。キーボードのタイプ音すらしない。

声をかけようとして、でもやっぱり返事が返ってこないことを恐れた。それならドアをぶち破って、踏み込んでしまえばいい。そうしたら全てわかる。けど、俺を拒否する帝人君のことを、俺はそこまでわかりたいのだろうか。

このドアを開けたくなるのは、かさぶたを剥がしたくなるのと似ている。暴きたいという感じと、痛い、という感じがないまぜで、でも後悔することがわかっていながら、かさぶたを剥がしてしまうものだ。血が噴出すことがわかっていても、どうしても気になる。この玄関を開けた時、中から血が噴出したとしても、俺はやっぱり、開けたいと思うのだろう。

もう一度、ドアノブを握った。金属は池袋の夜の空気に同調して、痺れるように冷たい。なんか寒いなと思ったら、俺はコートを着忘れていた。急いでいたとしても、波江も一言くらい声をかけてくれればいいのに。気遣いに欠ける秘書のことを思い出していたら、すぐ傍まで来ていた気配に気づくのが遅れた。

「……臨也さん?」

部屋の中から、帝人君の声がした。反射的に、俺はドアノブから手を引く。

「……やあ」
「ああ、やっぱり」
「何で俺だって、解ったの?」
「何となくですよ」

扉の向こうの声は、アパートの他の住人を気にかけているのか、ぼそぼそとしていた。聞こえづらいので、玄関に耳を当てたくなるくらいだ。

「そういえばこの前は、差し入れありがとうございました。……チョコボール、臨也さんも買ってるんですか?」
「いや、俺は買ってないよ。あれはなんとなく。流行ってるみたいだけどね。首なしも買ってるって」
「へえ、セルティさんまで」

場を繕う、他愛ない話を俺は続けた。まるで隠し事をしている人間が、そのことから視線を逸らさせるためにわざと関係の無い話題を振るみたいで、俺はそんな自分がおかしかった。ドアノブに触れたくらいで、こんなに俺は怯えている。

話の途中で、点けっぱなしの電気を思い出した。とりあえず死んでいないんなら、別段問題は無いんじゃ、と結論づける前に、一応確認する。

「最近は、どうしてる? 学校休んで、夜更かししまくりかな」
「そうですね。あんまり寝てないです」
「何でさ、時間を気にせず寝たい放題だろ」
「お腹すきすぎて、眠れないんですよ」
「……は?」

思わず出た俺の間抜けな声に、ドア越しの帝人君が困り笑いをするのが、なんとなくわかった。「寝るのもカロリー要るんですよ」と、言い訳めいた返事は、この際無視した。

「お腹すいてるの?」
「はい」

ドア越しに、恥ずかしそうな、少年の声がした。プライドの高い帝人君に気を遣うのも忘れて、俺は畳み掛けるように質問した。

「ご飯、無いの?」
「無いんです」
「いつから?」
「一昨日ぐらいから……」
「じゃあ、昨日も今日も何も食べてないわけ?」
「台所に砂糖とか塩とかが少しあるので、それをちょっと」

醤油でも飲みだしかねないような、少年の食事事情が明かされる。ドアの向うの彼は、きっと痩せた体をさらに細くしているんだろう。一枚のドアが、俺から視覚を奪って、彼の変化を見誤る。

情報屋なんて大層なものを名乗ってるのが、本当に馬鹿らしい。彼の部屋の冷蔵庫の中にカメラを仕込んでいるわけでもない。彼の生活にいつでも聞き耳を立てていればとか、考え出すのも馬鹿らしい。俺の駒の餓死のリスクとか、驚きでしかない。

「ちょっと、待ってて」

階段を降りて、コンビニに走った。郵便受けを通りそうなサイズの食料を買い込む。結果的に、レトルトとか缶詰食品ばかりになってしまった。レジを通して、またアパートに戻る。急ぐと、カンカンカン、と階段がうるさく鳴った。お待たせ、と言って、俺は薄っぺらい鯖の缶詰をレジ袋から取り出す。そこで、気づいた。

「(ここまで限界なら、食事をちらつかせれば出てくるんじゃないか)」

郵便受けに差込みかけた缶詰を引き抜く。ドアの向こう側に、帝人君は居るようだった。

「帝人君、色々食事、買ってきたんだけど」
「あ……何か、すみません、ねだったみたいで」
「いいよ、それは。……ねぇ、買ってきたんだから、出てきなよ」
「まだ、ダメです」
「もう、ダメの間違いじゃない? お腹すいてるんだろ?そんなんじゃ死んじゃうよ」

がさがさと、わざとレジ袋を鳴らす。缶詰とレトルトなどのインスタント食品ではあるが、最高の取引材料だ。昨日も今日もろくに食事をとっていないなら、腹の中は空っぽのはずだ。文字通り、喉から手が出るほど、食料が欲しいはずだ。

「ねぇ、じゃあ、出てこなくていい。ドアを開けてよ」

ドアを開けるだけでいい。そしたら俺が部屋に入って、彼の代わりに固い缶詰の蓋を開けてやろう。食べさせてあげてもいい。腹が膨れれば、きっと寝ることもできる。そしたら俺はちゃんと出て行く。それでいいだろ。

ドア越しに、俺の意図は伝わったようだった。帝人君の声がいやにか細いのは、単に腹が減って声が張れないだけだ。

「開けたら、きっと、死んじゃうんです」

うつろな声で、帝人君はそう言った。俺は、顔をしかめて、鉄の階段を降りた。急いでいないけど、カンカンカン、とうるさく鳴らす。地上に降りて、部屋を見上げた。もう一日放置して、様子をみようか考える。明日の朝になったら、腹が減って、あの頑なな態度も磨り減るだろう。

「(けど、死ぬってどういうことだ)」

ドアを開けたら死ぬ病って、そんなの聞いたことがない。カルテの死因に「ドアが開いたため」だなんて書けないだろう。

しかし、彼は嘘をつくような子ではない。大体にして、今嘘をつく必要もない。食料は必要なはずだ。彼はマジに言っているんだ。こんな限界ギリギリなふるまい、単なるかまってちゃんができるわけない。人の気を引くために、餓死にまで走る頭の悪い子ではない。

俺は重い足取りで階段を上り、玄関の前に戻った。そうして郵便受けに、レトルトのパックを一つずつ投函する。ノックを嫌うということは、ドアが揺れるのも嫌なんだろうと思って、缶詰はゆっくりと滑らすように落とした。

「臨也さん」
「何」
「あの、ありがとうございます。お金……」
「要らない。他に何か、欲しいものある?」
「あ、じゃあ……また、チョコボールが食べたいです」

何で俺がこんな子供のパシリなんてやっているんだろう。チョコボールと板チョコをレジに通して、コンビニの袋を提げて歩きつつ、ぼんやりとする。

同時に、そうまでしてドアを開けたがらない、わからないままの彼の気持ちを、俺はどうしようもなく、知りたくなってしまった。


■二週間目

今日で、ちょうど二週間目になる。昨日の差し入れがまだ消化されていないことはわかっていながら、俺はまたコンビニで缶詰を買い込んで、彼のアパートに向かった。

秋のうちには、出てくると彼は言った。日に日に、空は秋加減を増していく。冬へ完全移行する前の、わずかな猶予時間といった感じだ。

鉄の階段を上る。また、鼻先を蝶々が掠めた。以前と同じように手で追い払うと、蝶々はふらふらと高度を落とす。しかしアパートの廊下の床から十数センチのところで何とか持ち直し、低空飛行しながら床の上を漂った。帝人君の部屋の玄関前まで足を進める過程で、俺は、その蝶々を踏んだ。俺は特にそれに構うことなく、以前と同じように、ドアの向うに声をかける。

「みーかどくーん、あーそーぼー」
「あ、こんにちは臨也さん」

ドアの向こうに、帝人君の気配が現れる。姿は見えないが、昨日よりはマシな顔色をしているだろう。差し入れもってきたことを伝えると、帝人君は、恐縮しながら丁寧に昨日の礼を言った。礼を言うくらいなら、出てきて顔を見せて欲しいと思ったけれど、俺はそれを口には出さない。

コンビニで買った缶詰を、昨日と同じように郵便受けに流し込む。これで彼は命を繋ぐだろう。逆に言えば、これが無かったら、彼は死ぬ可能性だってある。ドアを開けないとはそういうことだ。

「俺が来なかったら、どうなってたんだろうね」
「わかりません。……臨也さんは、僕の命の恩人ですね」

少し照れくさそうな、緊張したような声で、帝人君が、また礼を言う。誰かに物を恵まれることに、もしかしたら慣れていないのかもしれない。昨日に続けて、缶詰と一緒にチョコボールも投函してやった。

郵便受けが、四畳半に閉じこもった彼を生かしている。ドアが胎盤で、郵便受けがへその緒みたいに養分を与えている。今、ドアをこじ開ければ血液や羊水と一緒に、不完全な帝人君が出てくるのか。だから、ドアを開けたら死ぬのか。かさぶたどころではないなあと、妄想をめぐらせる俺に、帝人君はやっぱり、礼を言った。

「でも缶詰なんかじゃ食べた気しないでしょ。出てきたら、露西亜寿司でもご馳走するのに」
「それは魅力的ですけど、まだ、ドアは開けられないので」

いつも通り、彼はドアを閉ざしている。でも、俺の提案には、いつも完全に断るような態度ではない。常に、まだ、とか、今はダメ、とか、そういう返事だ。行くのはやぶさかじゃないけど、ドアが開けられないから、出られない。そんな言い回しにも取れる。一度、窓から出て来いと言ってみたら、どう返事をするだろうか。さすがにそれは、完全に断りそうな気もするけど。

「あのさ、外出することが、嫌なの?」
「いいえ」
「ドアを開けることが、嫌なの?」
「はい」

帝人君が、単調な返事をする。この話題は、もう飽き飽きしているんだろう。きっと俺以外の知り合いにも、イヤというほど聞かれているだろうし。だが、焦点はそこしかない。

「このドアは、誰が来ても、開けないのかい?」
「はい、今は」
「絶対? 親が来ても?」
「はい、絶対、今は開けられません」

誰が来ても、開けないという。その腹づもりは、狼と七匹の子山羊たちの、子山羊よりも固い。誰が来ても、決してドアを開けてはいけない、と母親に言いつけられた子山羊達だが、結局は狼を部屋に入れてしまった。この様子では、母親が来たって、彼はドアを開けないだろう。

「そう。チョークでも食べてみようかと思ってたのに」
「……ああ、昔話の。僕、子山羊ですか」
「俺はさしずめ狼だね」
「臨也さんは、チョークなんて食べなくても、きれいな声ですよ」

お世辞には聞こえない。そうだ、この子は俺のことが好きなんだった。そりゃ好きな男の声は耳に心地よいだろう。チョークでつややかな声を作り、誘いだした狼みたいにできたらいいのに。そうして家中に隠れた子山羊を見つけ出して、捕まえて、いや、どうもしないけど。とりあえずドアの向うの四畳半は、隠れるところもなさそうだなと思う。押入れくらいか。

「あれ、でも狼と七匹の子山羊って、小麦粉で黒い足を白く偽装して、ようやく家に入れるんですよね」
「そうだっけ」
「確か……」
「そっか、じゃあ小麦粉でも買ってこようかな」

俺が言って玄関から離れると、帝人君がまた礼を言う。背中にありがとうが張り付くようだった。昨日より声に覇気があって、ただ、それだけでも収穫だ。

事務所には、働かない秘書のせいで遅れている仕事が待っている。さっさと帰って処理しないといけない、結構切羽詰った状態にあった。本当はここに来る時間すら惜しいんだけど、仕方ない。栄養がへその緒を通らなければ、赤ん坊は腹の中で死ぬだけだ。

階段の直前で、さっき俺が踏んだ、蝶々の死体をもう一度踏んでしまった。足を上げて、廊下の床を見る。俺の靴裏で地面に押し付けられた蝶々の死体は、上手い具合に羽を広げて平べったくなって、押し花みたいに、アスファルトに同化していた。さっきは気づかなかったが、これはアゲハ蝶だ。もしかしたら、一週間前に手で追い払ったものと同じ固体かもしれない。

秋の蝶々は、やっぱり、弱弱しい。泥で汚れた黄色い羽は、くすんだ色をしていた。


■二週間と一日目

仕事の催促の電話が、ひっきりなしに来ていた。波江が電話を取らないので、渋々俺が受話器を取る。冷静に考えれば、こうして電話に対応している間に仕事をする時間が削られるわけだが、先方は感情だけで走っていた。

波江が開けるチョコボールは、開けた箱の中身の一割も消費できていない。俺は食べ飽いたチョコレートの味にげんなりしながら、電話を受け、キーボードを叩く。
そうやって、珍しく忙しい仕事をこなしている最中、携帯電話が鳴った。また仕事をせっつかれるのかと思ったら、意外な名前がディスプレイに表示されている。

「帝人君?」
『あ……もしもし、臨也さん。今、大丈夫ですか?』
「あんま大丈夫じゃないけど……何?」
『忙しいなら、またかけます』
「いや、いいよ。どうしたの?」

仕事の手を止めて、電話越しの向こう側に意識をやる。電波に変換された彼の声を聞くのは、ドア一枚隔てるのとはまた違う距離感だ。近くで囁かれているようなのに、気配はまったくない。でもどちらも、姿を見ることはできない。

俺が忙しいのを察知したのか、帝人君は電話を切ろうとした。だが俺は鳴っている電話の受話器を放り投げて、彼の用件を聞き出す。彼の声は、少し緊張していた。

『あの』
「うん」
『今から、来れませんか?』
「今?何で」
『鍵、開けたので』

忙しいなら、仕方ないですけど、と控えめな声が続いた。

「……え、開けたの?何で?」
『秋のうちには、出てくるって言ったじゃないですか』
「ああ、うん」
『……あの、それじゃ、もし時間があったら、来てください』

電話が切られる。それと入れ替わりに、携帯電話が鳴った。仕事の催促の電話だ。目の前に、仕事の期限が差し迫っている。外に出ている余裕なんてない。秘書が仕事をしない以上、この事務所を空ければ仕事は一ミリも進まなくなる。

「波江、ちょっと出てくる。電話番してて」

俺は事務所へ出た。しかし一旦外に出るとコートを着るのを忘れていて、一度戻る。波江は電話の線を抜いていた。声をかける時間が惜しくて、俺は無心でクチバシにエンゼルの姿を探す女と、仕事を事務所に置き去りにした。

アパートに着いて、俺はガンガンと音を立てて鉄の階段を上る。彼の部屋の玄関は、今日もアパートに馴染むようにボロく、薄っぺらそうだ。このドアが開くのに十五日間も、何故かかったんだと首をひねりそうになる。俺はノックをしようとして、でもやっぱりやめた。

「帝人君」
「臨也さん? 鍵、開いてますよ」

声が、奥から聞こえる。ドアのすぐ向うに、帝人君の気配はない。俺はおそるおそる、ドアノブに触れた。金属の冷たさは以前と変わらない。それを、ゆっくりと回す。シリンダーの反発もなく、バネがかちんと跳ねて、枠との間に隙間が生まれる。恐々とドアを引く。ドアノブに電流は流れていないし、当然だが血も羊水も流れ出ない。拍子抜けするほどあっさりと、ドアは開いた。

「臨也さん、こっちです」

声のする方を向く。何の変哲もない、畳張りの四畳半の部屋に、少年が座っていた。何も変わったところなどない。台所脇に缶詰の空き缶が積まれているぐらいで、部屋自体に異常はない。こんな狭い、窮屈で何もない空間に、帝人君は二週間とんで一日も引きこもっていた。

俺は部屋をしつこく見渡した。彼が固くドアを閉ざし、この部屋にひきこもった原因を知りたかったからだ。だが、何も見つからない。帝人君を見ると、いくらか痩せているのがはっきりわかるが、怪我なども見当たらないし、特に外出を制限されるような状態でも無かった。

「えっと、何か、お久しぶりです」
「昨日も来たよ」
「そうですけど……こうやって、顔を合わすのは久しぶりだなって」

帝人君が、はにかむ。彼の表情の変化を、俺はようやく視界に納めた。たった二週間と一日ぶりなのに、久しく会っていなかったようにも思う。だから俺も、ひさしぶり、と返した。

蛍光灯のフィラメントが切れかけているのか、ジジ、と虫の羽音のような、耳障りな音がしていた。ちかちかと、不安定に瞬く。俺が目を細めると、蛍光灯の寿命がもうすぐなのだと言った。蛍光灯が切れる前でよかった、と帝人君が言う。

「思ってたより、長引いてしまって」
「そうなの?」
「はい、本当はもうちょっと早くかなと思っていたんです」

帝人君が言葉を放つと、すぐ傍に息遣いを感じる。今まで、玄関のドア一枚が阻んでいたそれが、俺にはひどく懐かしくて、同時に愛しいように思えた。ドアが開いた、ということに、俺はひどく高揚していたんだ。安堵感と、そして、どうして出てきたのか、どうしてひきこもったのか、という、タネ明かしに対する好奇心が、俺の中に渦巻く。

逸る気持ちを抑えて、彼が好むような声色で、俺は聞いた。

「何で、ドアを開けなかったのかな」

質問に、帝人君は照れくさそうに笑いながら、机の上にあったアルミの茶筒を手に取った。インスタントの薄い茶でも出してくれるんだろうか。茶を出すということは、話が長くなるのかもしれない。俺は仕事のことを脳の隅に追いやった。

今日は、帰ってくれと言われるまで帰らないつもりでいる。以前、彼が唯一俺に「帰らないでください」と引き止めた時は、仕事を理由にさっさと出てったくせに、ドア一枚開いたくらいで、この心境の変化は何だろう。

「聞いても、笑いませんか?」
「努力はするよ」

あはは、と帝人君が笑う。そして、持っていた茶筒の蓋を開けた。その中身を湯のみに注ぐこともなく、ただ、彼はぽん、と軽やかな音を立てて、茶筒の蓋を開けた。ちかちかと光る蛍光灯のせいで、俺は全てがコマ送りになっているような感覚がした。

安っぽい銀色の茶筒の中から、手品みたいに、それは現れた。

「……何?」
「蝶々です。アゲハ蝶。今朝、サナギから孵ったんですよ」

狭い茶筒の中から、狭いながらも広がりのある四畳半に解放された蝶々は、ひらひらと上昇していった。

まだ飛び方がなっていないのか、少し羽をもつれさせるが、それでも、この四角い空間を自由に飛んだ。

秋の蝶々は、アパートで俺が手で追い払った、踏み潰したそれと同じように、弱弱しい。乱れるようにはためく蝶々が俺の方に飛んできて、思わず手で払おうとしたが、帝人君が蝶々を熱心に目で追っていることに気づき、横を通り過ぎるのを待った。

やがて羽休めに、蝶々はやかんの注ぎ口に止まった。二、三度羽を開いては閉じ、その黄色い羽模様を見せびらかす。

俺は蝶々から、視線を帝人君に戻す。同じタイミングで、帝人君も俺を見た。

「……どういうこと?」
「二週間前、ですか、玄関のドアノブに、サナギがついていたんです」
「……サナギが?」
「気づかなかったんですけど、いつの間にか、部屋に幼虫が来ていたみたいです。それで、何を思ったのか、ドアノブでサナギになっちゃって」

ああいうのって、結構どこででもサナギ化しちゃうみたいですね。僕が元々、あんまり外出しないからかもしれませんけど、と帝人君が付け加える。

「それでネットで調べたら、サナギって、ちょっとの震動でダメになっちゃうんですよ。孵化に向けて、中身が一旦どろどろになるらしいので。だから、扉を開けるためにドアノブを回すのも無理だし、第一ドアノブを回すとサナギが落ちて、ダメになっちゃう気がして」

かすかに身振り手振りを交えて、帝人君が説明する。蛍光灯が不穏な音を鳴らしている。虫の羽音のような、耳障りな音だ。音に驚いてか、やかんに止まっていた蝶々が飛び立つ。黄色い花びらみたいな羽を扇のように揺らして、ふらふらと俺と帝人君の間の空間を周遊した。蝶々は、無音で飛ぶ。

「……じゃあ、サナギが居るから、ドアを開けなかったってこと?」
「はい」

サナギの中にひきこもった芋虫と一緒に、彼は四畳半の中にひきこもっていた。道連れだ。いや、人間はひきこもったってサナギにはなれないし、孵化はしない。無駄なことだ。

加えて、サナギが居るからドアを開けなかった、というのはおかしい。邪魔なサナギなんて、取って捨てれば良い。
それ以上に、俺が色々と気にかかることが心に沸き立ってきた。

「何で、言わなかったの」
「え?」
「首なしも、俺も、周りの人間が皆心配してただろ? どうして、サナギのこと言わなかったんだい」
「恥ずかしいかな、って」

また、帝人君がはにかんだ。脱力しそうになる足をなんとか支え、俺は立つ。蝶々はうっとうしく、俺の周りを飛んだあと、不安定に光る蛍光灯へ吸い寄せられるようにして、飛んでいった。蝶々の影が、四畳半の畳の上に映る。

「それに、どうせ臨也さん、そんなことを言ったらドアを蹴破りそうだなって」
「……ああ、うん」
「今、サナギなんて捨てちゃえばいいじゃん、とか考えてるんじゃないですか」

帝人君が、蝶々を閉じ込めていたアルミの茶筒を閉める。茶が出てきそうになかった。食料にさえ事欠いていたこの部屋に、茶葉なんてあるはずなかったんだ。

「でもね、それが普通の思考だよ。誰も、サナギに付き合って餓死寸前までひきこもったりしないさ」

俺は、蛍光灯の熱に炙られる蝶々を見上げた。踏み潰してやりたい。切り裂いてやりたい。だって、そうじゃないか。この子は俺のことが好きなはずだ。大好きなはずだ。惚れているはずだ。それなのに、こんな虫けら一匹を優先した。毎日通った俺をないがしろにして、サナギの無事のために、俺を追い返した。

この執着はおかしい。彼は虫好きな人間だったのだろうか。俺がナイフであの蝶々の黄色い羽を切り落とす隙を窺っている最中に、帝人君が小さな声で話し始める。

「でも、サナギは、この部屋に根付いてくれたんですよ」
「根付いた?」

帝人君の言葉の意を探るように、彼の視線に自分の視線を添わした。彼は、アゲハ蝶を見ている。知能のかけらもない蝶々は、蛍光灯の熱に焼かれて離れ、また光に引き付けられ、熱で焼かれている。

「出て行かないで、ここに残ってくれたんですよ」
「……何言ってるの?」
「だって、臨也さんは、必ず出ていってしまうし、帰ってしまうじゃないですか」
「………」

一瞬、責めるような視線を、帝人君は俺に向けた。だが、それもすぐに止み、また蝶々を眺める。

俺は、この部屋を訪ねるたびに、彼が俺に向けていた視線を思い出していた。帰らないで欲しい、とか、行かないで欲しい、とか、居て欲しい、とか。彼は感情を行動に結び付けないけれど、目だけは、怖いくらい感情に素直な子だった。いっそ不躾に、俺への好意や、帰る俺の背中に未練を投げつけた。

でも、行動には移さない。実際に俺に触れようともしない。それは、彼が分をわきまえ、諦めているからだ。下手に好意を暴して俺に嫌われるよりも、薄い茶を飲みながら世間話を交わせる関係でいたかったからだと思う。帰ってしまうことがわかっていても、それでも、また部屋を訪れることの方が重要だと判断したからだろう。

「(……何か、今日は、違うな……)」

さきほどの責めるような視線は、以前ならもっと抑え込んでいたはずだ。彼が俺に不満があっても、こちらに悟らせないようにしていた。大好きな俺に嫌われたくないから。でも、何故か今日はやたらと、それを表に出す。

「臨也さんは、とっくに気づいてると思うんですが、僕、貴方のこと好きなんです」
「そう」
「ええ、そうなんです。……だから、いつも、貴方がこの部屋を出て、帰っていくのが嫌だったんです」
「………」
「すみません。これは、わがままなんです。好きで好きでたまらないものが自分の手元に残ってくれなくて、簡単に離れていって、自分の思い通りにならないのが嫌なだけなんです。手元に置いておきたいのに、それを引き止める術が自分には無くて」

蛍光灯の傍を蝶々が飛び回る。帝人君の顔に、蝶々の影が差し、また、蛍光灯がジリジリと不気味な音を出す。灯りを消してしまいたかった。

「それは、単なる独占欲だよ。誰にでもある感覚だ」
「はい、そうです。でも、僕には大事な感覚なんです。臨也さんが帰った後とか、すごく嫌なんです。不安で仕方なくなるんです」
「不安って?」
「臨也さんが、誰かのものになってるかもって。すぐ傍に居る時は、和らぐんですけど」
「……俺は特定の人間のものにはならないさ」

帝人君が俺を見る。辛そうな顔をしていた。俺が、さっきの彼の告白を今の言葉で拒絶したことに、気づいたのだろう。鈍いけど、聡い子だ。泣くかなと思ったけれど、案外、彼は安心したような表情をしていた。

「……サナギが、ドアノブに出来た時、嬉しかったんです」
「どうして。邪魔だと思うんだけど」
「臨也さんと違って、ここに居てくれるんだ、と思って」

俺が去った部屋に一人で居る帝人君が、サナギに愛着を感じてしまったという。馬鹿馬鹿しい。サナギもどうせ、迷い込んだだけだろう。小さい虫なら、隙間風とともに、ドアの隙間からアパートに入れる。けして、この部屋を、帝人君を好き好んで居残ったわけじゃない。

「じゃあ君、畳にカイワレが根付いたら、俺よりそっちを愛するの?」
「いえ、それは食べます」
「何それ」
「カイワレですから」

くすくす笑う帝人君のもとに、飛び疲れた蝶々が落ちるように近づいていく。帝人君がアルミの茶筒を手に取る。そして、もうアゲハ蝶はいないはずなのに、また茶筒をからから振った。黄色い花びらのようなものが、帝人君の手のひらに落ちる。アゲハ蝶の羽のかけらかと思ったそれは、チョコボールの黄色いクチバシだった。

「当たったんですよ、金のエンゼル。臨也さんが差し入れしてくれたチョコボールから」
「へえ、おめでとう。君もカンヅメ欲しかったんだ?愛のカンヅメだっけ」
「いえ、僕は別に、カンヅメは欲しくないんですよ」

帝人君の手のひらにある紙切れには、金色の線で天使が描かれている。俺の秘書が、仕事を放って躍起になって探しているものだ。でも、帝人君はカンヅメは欲しくないらしい。じゃあ誰かにあげるのかと思案しかけたところで、気配に気づく。だが、気づいた時には既に、俺の足に影が巻きついていた。

「………!」

影はあっという間に俺の体に絡みつきながら駆け上がり、取り出したナイフごと俺の体の九割を包み込んだ。口元にまで影が及び、声も出せない。首から上は、かろうじてそれ以外は影を免れているが、全身簀巻きのように縛り付けられている。身動きが取れないようにぎちぎちに締め上げられ、俺は畳の上に倒れこんだ。

「(セルティ……?)」

突然背後に現れていた、首なしの運び屋を見上げる。俺の体を繭のようにくるんでいる影は、彼女のもので、ナイフで破くこともできない。無理に暴れれば骨が折れるかもしれない、というぐらいの絞めつけ具合だ。

何故、ここに彼女が、とか、もしかして俺が彼女の首を隠し持っていることを嗅ぎ付けたのか、とか、様々な憶測をめぐらすが、直後の帝人君の言動によって、全てに合点がいった。

「ありがとうございます、セルティさん。これ、言ってたエンゼルです」

報酬を手渡すみたいに、帝人君がセルティに黄色い紙きれを手渡す。受け取った人外の運び屋は、PDAに何やら打ち込み、少年に向ける。すると帝人君は苦笑し、俺を見下ろした。俺は疑問符を浮かべるしかない。セルティの方も、何やら肩をすくめ、またPDAに文字を打ち込み、今度は倒れた俺に向ける。

『帝人を泣かすんじゃないぞ。浮気は最低だ』

彼女はフルフェイスのメットをしているため、というより首から上がないため、ドア越しの帝人君のように、表情から感情を読み取ることはできない。だが黒いライダースーツに包まれた体から発せられる感情は、明らかに俺に対しての怒り、もしくは呆れだ。どういうことか、すぐにわかる。

帝人君が、謀ったんだ。

セルティはそれから少し帝人君と会話したが、それほど時間もかけず、部屋を去って行った。出て行く前に一度、帝人君からもらい受けた黄色いクチバシを取り出し、やや小躍りしていた。セルティが部屋から居なくなると、帝人君は玄関の鍵をかけた。

影の操り主であるセルティが離れても、俺に巻きついた影は消えない。

「すみません、臨也さん」

帝人君がそう言って、影に束縛された俺に手を伸ばす。そして俺の口元の影をぐいぐいと引っ張り、影を外す。口が自由になった俺は、笑うのを抑えることができなかった。くつくつ笑う俺に、帝人君は頬を赤く染め、恥ずかしそうにした。

「首なしを、買収したんだ? あんな紙きれで」
「セルティさん、どうしてもカンヅメ欲しかったみたいで……、すぐ交渉成立しました」

ジジ、と頭上で虫の羽音のような音がする。そのうち蛍光灯の光は落ちるだろう。部屋を漂う蝶々は、さっきの首なしの出入りの際に逃げ遅れたようで、まだ部屋の中でのろのろと飛んでいた。羽の表面の鱗粉が、ちかちか瞬く蛍光灯の光を反射して、ぬらつくように光る。

「けどさぁ、浮気ってどういうことなんだい。どんな設定なの?」
「セルティさんには……僕たちが付き合ってるってことにしてます。僕と臨也さんが相思相愛だって信じてくれてますよ」
「なんでまた」
「臨也さん最近毎日来てたの知ってたみたいで、都合良く誤解してくれました」

そして「臨也さんが浮気するから当て付けにひきこもってるんです。一回シメたいんで協力してください」と、セルティが無い喉から手が出るほど欲しがっている金のエンゼルをちらつかせ、俺を捕獲させたという。

「こんなに上手くいくとは、思ってませんでしたけど」
「そうだね」

忍び寄るセルティの気配に、俺はなぜ気づけなかったのか。もとより、画策していた首なしと帝人君の動きに、なぜ気づけなかったのか。説明のつかない自分の感情よりも、俺は、何にも憚らずに、俺を愛しげに見つめる少年の心の内に釘付けになる。

ドアから溢れ出したのは、血でも羊水でもなく、彼の感情だ。閉じられたドアの向うで、彼は俺に知り得ない感情を育てていた。二週間と一日、彼がこの四畳半の中をどろどろに満たしていた感情が、今日形になった。それが弱弱しくも、俺の眼前で、羽を広げている。

帝人君は、俺をがんじがらめにしている影を指差して、とりあえず二十四時間はそのままにしてもらうという契約内容だ、と説明した。おそらくセルティは、その後は帝人君が俺を解放するとでも思っているんだろう。目の前の少年は、部屋にある押入れを開いて、くり抜かれた暗闇を俺の寝床にしようとしているのだというのに。

「ロープとか拘束具は、さっきネットで注文したので今日中に届くと思います」

この子が何を考えているか、俺はずっと考えていた。なんてことは無い。最初から彼は言っていた。秋のうちには出てくる。サナギはその通り、秋のうちに蝶々となって、四方を飛び回る。そして代わりに、俺はサナギのように体を影で覆われ、完全に動きを封じられていた。

「まるでサナギになった気分だよ」
「あ、確かにそう見えますね」
「俺も蝶々になったりして」
「なりませんよ。臨也さん人間じゃないですか」

だから、ずっと、そのままですよ。帝人君が笑った。帝人君の笑顔が、不揃いなタイミングで点滅する蛍光灯の光のせいで、俺の網膜に焼きつく。俺は思わず目を細めた。視界の端に、黄色い紙きれが飛んでいる。俺の何もかもを貶めた、虫けらが飛んでいる。

蝶々は大きな羽による浮力を頼りに、帝人君の周りを飛び回った。帝人君は、蝶々を俺に向けたものと全く同じ、愛しげな目で見つめた。それが酷く腹立たしい。

「冬眠の方がマシだったな。君と二人でさ、春まで眠るんだ」

君がその目を向けていいのは俺だけだろ、と思う。そんな蝶々を気にかけるくらいなら、一つの季節を犠牲にしたって、君が目を閉じているくらいがマシだ。
しかし、帝人君はお気に召さないらしく、首を横に振った。

「僕は嫌です」
「何で? 俺と二人でだよ?」

彼の周りを飛んでいた蝶々が、やがて飛びつかれ、座った彼の膝の上に羽を立てて止まる。帝人君は、傍にあった開け放しのアルミの茶筒を手に取る。アゲハ蝶と黄色いクチバシが出てきた茶筒だ。もう振っても、何も出てこない。

言ったじゃないですか、と、帝人君が少し笑った。

「僕は閉じこもりたいんじゃなくて、閉じ込めたいんですよ」

そう言って、帝人君が空の茶筒に、アゲハ蝶を入れた。そして優しく蓋を閉め、アルミの円筒の中に、蝶々を閉じ込めた。